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旧式経済学の「矛盾」
Writer : iscandaru (2021/4/11)

こんにちは! iscandaruイスカンダルです! 少し時間が空いてしまいましたが、カジュアル経済もまだまだ続いていきますよ!

今回は前回に引き続き「ざっくり解説!!MMT編」の第2弾をお送りしてきたいと思います!

前回、最後の方で「MMTは信用貨幣論を採用しており、旧式経済学では商品貨幣論を採用している。」という話が出てきたかと思います。

今回はそのうち、旧式経済学の「商品貨幣論」のほうにスポットを当てて、その「矛盾」を考えていきたいと思います。

商品貨幣論の矛盾1
貨幣のプール論

商品貨幣論というと物々しい雰囲気がありますが、要するにこれは「おカネ=モノ」という考えに基づいた貨幣観です。

つまり「おカネは物々交換から誕生し、金や銀などの裏付けのもとで成り立っている」というような考えのもとで経済をみていくのが商品貨幣論であり、旧式経済学なんですね。

さらにこれを発展させると「おカネの量には限界があり、おカネを全て集めたプールのようなものから、みんなが分け合っておカネを使っている」という「貨幣のプール」の認識が生まれます。

あくまで「おカネ」は一種類であり、その量を調整することでインフレやデフレが発生する、つまり「おカネの量が増える=おカネの価値が下がる(インフレ)」「おカネの量が減る=おカネの価値が上がる(デフレ)」という方程式が成り立つわけです。

したがって「おカネを発行したらインフレになる」というような考えが生まれるのもこの商品貨幣論の特徴といえます。

しかしながら、カジュアル経済#10でも解説したように、この考えでは現実に起こっている出来事を説明できないことが数多くあります。

ひとつは、銀行預金と現金紙幣の量の相違です。 現在、日本では現金紙幣が約118兆円分発行されています。それに対して日本の市中銀行の銀行預金残高は約832兆円と7倍ほどの開きがあります。(ちなみに百円玉などの「硬貨」は約5兆円発行されています。)

つまり、みなさんが一斉に銀行預金を現金に替えようとしても、それだけの紙幣が日本にはありません。 もちろん、日本のどこかにそれだけの金や銀が蓄えられているわけでもありません。

これでは「おカネ=モノ」の論理は成り立ちませんよね? それもそのはずで、おカネの正体は「情報」ですから、別に物体として存在していなくても問題はないのです。

しかし、商品貨幣論は上のような「貨幣のプール論」を元にして理論を打ち立てていくので、様々なところで現実とのズレが出てきてしまうんですね。 他の例も見てみましょう。

商品貨幣論の矛盾2
クラウディングアウト

次にご紹介するのは「クラウディングアウト」と呼ばれる現象です。 これは政府が資金を調達するのに、国債の大量発行、減税などを行った場合、銀行などにおける金利が高くなってしまい、結果として国民の所得が増えなくなってしまう現象のことです。

言い換えると、先ほどの「貨幣のプール」から政府がごっそりとおカネを持っていってしまうと、残り少ないおカネを民間で取り合うことになってしまい、金利が高くなって、資金調達できなくなるということなんですね。

つまり「政府が国債などを大量に発行すると、金利が上がる」ということなのですが、実際のところどうなのでしょう?

「クラウディングアウト」に関するデータ

  • 20年前(2000年)と比較すると、国債発行残高は2倍程度になっている
  • 50年前(1970年)と比較すると、国債発行残高は152倍程度になっている
  • 2020年度の国債の長期金利はほぼ0%
政府債務残高とインフレ率の関係
三橋貴明、「政府貨幣発行残高(旧:長期債務残高(左軸))と国債金利・インフレ率(右軸)」(2020年4月24日時点見込み、ソース元:財務省)
http://mtdata.jp/data_69.html#zaimu

と、このように日本政府はここ数十年間の間、国債を大量に発行し、現在その残高は1200兆円以上とGDPの2倍以上の規模となっています。

では、当然「クラウディングアウト」によって金利は高騰するはず…ですが、実際はほぼ0%です。 なぜ理論と異なる現実があるのでしょうか?

それはもちろん「貨幣のプール」なんてものが存在しないからです。 日本で政府が大量に国債を発行したところで、たちどころに金利が上昇してしまうなんてことはほとんどあり得ません。

では、金利が本当に上がってしまうのはいつか。 それは「資金需要が高まった時」に他なりません。 つまり、インフレ・デフレと同じで需要と供給の関係によって金利は上下するんです。

つまり、今日本はデフレで供給能力が余ってしまっている状況です。したがって資金調達して、投資をしようというインセンティブが働かないので金利がとっても低いんですね。

まして、このコロナ禍です。 国民一律10万円給付の際などには90兆円以上の国債が発行されましたが、民間の需要が激減している状況なので金利は上がりませんでした。

ということで、この「クラウディングアウト」に関しても現実との齟齬そごが起きてしまっています。

商品貨幣論の矛盾3
トリクルダウン理論

最後に紹介するのが「トリクルダウン理論」です。これは「富裕層がさらに裕福になると、経済活動が活発化することで低所得者層にも富が浸透し、利益が再配分される」という理論です。

これは所得水準が高い層を優遇することによって、水が滴り落ちるように低い層へとその恩恵が浸透するということをいった理論なのですが、実際どうなのでしょう?

このために行った政府の施策の一つとして「金融緩和」があります。 これは日銀が国債を買い取ること(買いオペ)を行い、日銀当座預金(銀行が日銀の口座にもっている預金)を増やすことによって、銀行の資金が潤沢になり、結果資金需要が高まることを狙って行った施策です。

異次元の金融緩和
三橋貴明、「日本のマネタリーベースの推移(兆円)」(ソース元:日本銀行)
http://mtdata.jp/data_68.html#MB

図のように、2012年の第2次安倍政権、そして2013年の黒田日銀総裁誕生以降、「異次元の金融緩和」によって日銀当座預金は300兆円以上発行されました。

しかしながら、想定されていた「トリクルダウン」は起こりませんでした。 国民の所得の水準を見ることができる実質賃金のデータを見てみましょう。

実質賃金の推移
三橋貴明、「日本の実質賃金(現金給与総額、全産業)の推移」(出典:統計局)
http://mtdata.jp/data_74.html#1990RI

このように、1997年以降続いていた日本の実質賃金の低迷はこの施策で止めることはできず、ここ数年に至ってはさらに悪化しています。

このように「トリクルダウン」は望んだような形で起こりませんでした。 その原因は主に2つあります。

ひとつは発行されたのがあくまで「日銀当座預金」ということです。実はこの日銀当座預金というおカネは「銀行と日銀しか使えないおカネ」なんです。ですから、これをいくら増やしたところで、それが民間に直接行き渡るということはありません。

2つ目は、「富裕層がより豊かになったところで、それが低所得者層に行き渡ることは少ない」からです。 もちろん有名なM社長のように富裕層が皆「おカネ配り」してくれれば別ですが、そういったことはほとんど起きません。

基本的に、富裕層が資金を得たときには、それが投資に周り、さらなる利益拡大のために使われるだけです。これではトリクルダウンどころか、むしろ格差の拡大を悪化させてしまいます。

ということで、このトリクルダウン理論も現実には起き得ない形だけのものだったのです。


以上、商品貨幣論を採用する旧式経済学が抱える矛盾について取り上げてきました。いかがでしょうか?

こうしてみてみると、旧式経済学は現実をうまく説明できていないことが多く、少し「時代遅れ」感がありますよね…。

私は、上のような事実から商品貨幣論に否定的ですが、だからといって旧式経済学が全て間違っているということにはなりません。何度も言いますが、みなさんぜひ自分で考えて、何が正しいかを判断してみてください。

ということで、次回はいよいよ! 散々引っ張ってきたMMTの中身についてみていきます! 旧式経済学では説明できない現象を、MMTではどう説明しているのでしょうか? 楽しみですね!


最後まで読んでいただきありがとうございました!

ではまた!

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